「魅惑のブス」クィア・ジャパン 2000.10 vol 3 剄草書房
[2005/07]

4月のある日、ふらっと実家近くの大学の生協の図書コーナに行った。新入生が教科書買い込んでる中を歩いて、「彼らとそろそろ10歳ぐらい離れてるのかぁ。歳とったなぁ」とちょっと感慨深くなった。こういうのって、夏にテレビつけたら高校野球がやってて、「えっ、高校野球に出てる人って、こんなにガキなんだ」って思って愕然とする感覚に近いのかな。小学校の頃は高校野球は凄いお兄さんがやるもんだと思ってたからなぁ。

マニアックな本を買おうと思ったら、大学生協はそこそこいいと思う。センスのいい小物を美術館のアートショップで買うようなもんで、たまにぶらっと寄ってしまうんだけど。そんなセンスのいい?生活スタイルを目指しながらも、手にとるのは何故かゲテモノの時もあるw けど「魅惑のブス」というタイトルの時点で中身見ちゃうでしょう。え、みんなは違う?「魅惑」と「ブス」が並んでタイトルなんだぜ。すげーイッテル。ついつい左右を確認してから開いてしまったけど、色んな人が書いてます。



なぜ「ブス」は存在するのか −生物学からみた「ブス」の意味
簡単に言うと、ブスが避けられるなら遺伝子を残せない訳で、美人の子供ばっかりが勢力をもって、そのうちブスは無くなるんじゃないか?という生物学的な議論を、最終的に美醜は時代や地域で違うからという結論に持っていってる。そんなに目新しい話はないかも。

・竹田青嗣インタビュー「美醜とは人間にとってなにか」
おっ哲学系で入門書をよく書いてる竹田さんじゃないですか。こんな本に寄稿していいのかしらんと思うけど、議論の中身は至って真面目。人間は真・善・美といった価値の秩序を持っていて、価値基準を持つのは悪い事でもなんでもない。という至極当然のところから始まるけど、途中はちょっと話を難しくしてると思う。「美」とはその人の「ロマン的世界像」の形成に応じて変わるのですってのは意味が分るような分らないような。。絶対的な美は無いが普遍的な美はあるってのはインタビューアが分らないっていってるけど、これは当然だろう。全員が美人と思う人はいないが、一般的に美人と言われる人はいるっていうだけじゃん。「ミスコンは美醜の差別を強化しないのか?」という質問には美醜の価値秩序自体が差別の根源であるという考え方から出てきた主張ですって答えてる。「ミスコンがあることで「ブス」の方に分類される人が傷つくとか、不快感を感じるという主張に正当性があるのか?」っていう質問には、不快感をもつのはいい。男でもモテル奴を見れば腹が立つ。けど、モテテはいけないという主張は公共性を持ちませんって答えてる。うん、いい回答かもね。あとは「外見による就職差別をどう考えるのか?」とか至極真面目な議論をしてる。だから全体としてはゲテモノな本ではないよ。真面目に正面から取り上げてると思う。


まあミスコンに関しては、ミスコンよりもハリウッド映画の影響の方が大きいと個人的に思うな。あのせいで欧米的美醜感覚が世界に広まる気もするから。ミスコンももっと色んな種類を作るとか。BrandyがTOPにくるようなミスコンもあってもいいとは思う。


私たちって雑誌の表紙になりたいっていうわけじゃないんだから、たった一人でいいから「あなたはすごく素敵だ」と言ってくれる人と出会えればいいのよね。でも、そうしたたった一人との出会い、それが難しい。でもね、私は、思ったことは現実化すると思うの。もちろん私が億万長者と結婚するとか、宝塚へ入って踊っている私とかいくらイメージしたって、奇跡でも起こらなきゃ現実は無理よ。でも、他人の男であれ素敵と思ったら、その男と浜辺を歩いている私をウットリと思い描いていると、ものすごくいいホルモンが流れて、元気に美しくなっていく。思ったことは私という肉体を通じて現実化する。つまり見るからに幸福な女として、ね。
 現実だけが現実じゃない。生涯、その人とは結ばれないかもしれない。でも「私はなんて男運の悪い女だろう」とクヨクヨしてたらどんどんブスになってしまう。思ったことは現実化するんだから、好きな男の横でトキめいている自分を勝手にイメージすればいいのよ。頭の中は自由だもの。脳って本当のこととそうでないことの区別がつかないんだから、嘘でもトキめいていれば綺麗になれる。綺麗になれば出会いの可能性が高くなるから、嘘から出たまことになるもんね。

この論法に完全に同意する訳じゃないけど、ストレートさといじらしさが全面に出てて凄くいいと思う。「ときめくブスは美しくなる」田中美津です。その前では私はね、美人とは比較しないくせに、なぜかブスとは比較するのね(笑)って書いてるし、他ではありえないくらいの正面度数。そんななんなで結構お勧めな本だよ。


でも一番ガツンと来たのは「パワフル・ブス・ライフ!あるブス女との対話」 木村恵子です。
タイトル通りのパワフルさ。まるで疾走するジェットコースターに飛び乗って、所々で枝や岩にガンガン頭をぶつけながら、あっという間に終点までついてしまうような乱暴さに満ちている。久々にガツンときた。自己への視線が客観的で冷静なんだよね。田中氏も嘘はついてないがイメージ絶対主義は1歩間違ったらちょっとなぁ。木村氏はその視線にパワフルさがあって、この非条理・無慈悲に満ちた世界をおし開けていく力がある。これが一番欲しかった。純粋な感動。その中でもポイントをピックアップしますね。

伏見:
それって女のかわいさで勝負すんじゃなくて、社内のキャバクラ嬢になるようなものでしょ(笑)
《中略》
そういうキャラを演じて、っていうか地を出して、その路線は社内で成功したの?

木村:
うん、一番にはなれないんだけど、すっごい下のランクの男の中にはファンになる連中も何人か出てきた。やっぱり若さの魅力もあるんだろうね。

木村:
下のランクの男って

木村:
「橋にも棒にもかかりません。ソープで処理してください」みたいな連中。でも、そんな男でも、車とか一応持っていれば、そこそこ使えるんだよね。パシリにするだけで、べつにやらせなくてもいいし。
《中略》
彼らは二十代でオマンコ持ってるホモ・サピエンスだったら、誰でもいいの。
《中略》
まぁ私も一流どころの男には相手にされないからね。当然、本当にモテル男は、女として鍛え抜かれた戦士のほうを狙うわけよ。私みたいに横道から入ってくるような女、結局、その文脈ではカスしかつまめないのね(笑)

P2S2R&B:
「女として鍛え抜かれた戦士」ってなんだよ===== うーん一遍会ってみたいぞw きっと中学生ぐらいからピーチジョンの下着とかつけてるんだろうなぁ。あそこの広告の女性はみんなビヨンセっぽくて個人的にはあんまりだが、戦士だもんねぇ。そういやこの前、経済誌でピーチジョンの女社長が出てた。へー、あんな人なんだ。興味深いインタビューだった。


伏見:
木村さんは、一流どころの男に野心を抱いたことはなかったの?

木村:
それがあったのよぉ。お近づきになりてーなという男はいたんだけど、そういうのはイロモノでは駄目なんだよね。イロモノはせいぜい友達にしかなれない。電話くらいはしてみたけどね。でも、よもやま話なんかしてみて、相手にまったく気が入ってないことが伝わってきたのでやめた(笑) 無駄な努力はするまい、と。

P2S2R&B:
うーんこの「無駄な努力はするまい」という潔さがいい。けど、普通は最初の1歩もしないんだよね。努力してみて、無駄と思ったらやめる。その見極めがポイントなのかな



伏見:
ブスが面白キャラで勝負するときって、傍で見ていて「イタイ」という印象を受ける事が多いんだよね。その手のブス女って、わざわざ自分を道化にしてみせるんだけど、本当はかわいい女だって思って欲しいって言う心の叫びが聞こえてくるようで下品なんだよ。でも木村さんはそいううタイプではまったくなかったよね。

木村:
そういう痛々しさを持っている女って、根が弱いんだよ。私って根本的に強いの。男たちに女としてのかわいさとか認めてもらえなくても、綺麗だって言われなくても、全然平気なの。
《中略》
男達にも一目おかれてた。それって蛮勇に対する評価なんだけど。

P2S2R&B:
そりゃこんだけパワーあったら、俺でも一目置くぞ。それを「蛮勇に対する評価」と客観的に言ってるのがいい。ただ、根本的に強いって言い切ってるのはもうちょっと攻めれると思うな。本当に強い人はこういう言い方はしないと思う。もし俺が向き合って話してるなら、ここは攻めどころだ。


伏見:
木村さんも、ある時期からインラン道をまっしぐらになっていったわけですが、それはどこでそうなったの?

木村:
私、踊るの好きだったから、クラブとかバーとかに出入りするようになっていったんだよね。で、そういうところに集まるような酒飲みとか、音楽やダンス好きの連中と遊ぶようになったの。そういう男たちって、出世とか世間体とかに興味ないから、快楽的で魅力があるんだよね。アンダーグラウンドの文化に浸りながら、ボヘミアン的な連中とずいぶんやりまくったもんだよ。


P2S2R&B:
なんかずっと世間体を気にしてた人生の気もしますが、(このHPは気にしてないけどw) だからBlack好きでもクラブやバーに出入りしなかったのかも。まあ大学時代に行ったらテクノばっかりでアホらしくなったのはあるが。


伏見:
その連中にしたらブスの木村さんのどこがよかったの?

木村:
そりゃ、私だと道端でもやらせてくれるとか、色んな性技を試せるとか(笑)
彼らも若いから好奇心があるわけでしょ?私もやりたいサカリだったから、お互いに、これやりてーあれやりてーで利害が一致していたんじゃないかな。

P2S2R&B:
ここら辺の言葉使いがすげー。「これやりてーあれやりてー」か。うーん。個人的にはR&BリスナーとしてSilkのPVでやってたポップコーンプレイは興味あるがw


伏見:
普通じゃできないことができる相手、ということか。
あんたってとことん安い女だよね(笑)

木村:
快楽主義者って言ってよ。その頃の私って若々しくぴちぴちしていて、ブスでもボディコンとか似合ったんだよね。黒人っぽいケツしてたし
《中略》


P2S2R&B:
なんかよく「黒人」が出てきますが。この返事は心の壁を感じる。「とことん安い女だよね」に「まあ高くはなかったかな」ぐらいならセーフなんだけど、この返し方を見ると、自問自答するときに快楽主義者という言葉でそれ以上底に行かない蓋をしている気がする。そこら辺を突っ込めばもっと奥が見える気がする。


木村:
そうね、あれからだんんだん年下ばかりと付き合うようになったし。年下の情熱って気持ちいいのよ。そのときの真っ白な気持ちで、全身全霊でぶつかってくるから。大人の駆引きとか考えないから、スカッと熱い風呂に入るみたいでいいの。


P2S2R&B:
「スカっと熱い風呂」かぁ。凄い表現。


伏見:
でも年下の男の子は相手がブスでもいいというという所があるの?

木村:
オヤジブスっていう私の欠点が、年下には魅力的に写ることもあるのよ。引っ張っていってくれるのがいいみたい。年下って経験も少ないし、知らない事を教えてもらうのが嬉しいから、強い女にリードされるって案外好きなのよ。
《中略》
まあ、相手が私の顔を本当のところどう思っているのかは・・・・
ときどき街を歩いていたりする時にそいつらが「いい女だなぁ」と指したりする女って、私と似ても似つかない女だったりするのに、愕然とすることもあるけど(笑)
あと、一端付き合いだすと、それでなんとかやっていけちゃうのよ。
男って恒常性に弱いって言うか、拾った猫をなかなか捨てれないと言う所もある。アディクションみたいなものかな。といっても努力せずに相手をキープできるのは三ヶ月ぐらい。ま、メンテナンスすると4年ぐらいはいけるかな。
《中略》


P2S2R&B:
「メンテナンス」ってなんだよ=== この3ヶ月と4年のスパンの見立てがどれだけ正確かはわからないけど、なんかごり押されてる気がする。確かにこんだけパワーがあるオヤジブスならついつい付いていくかも? 拾った猫に関しては、もしそうなら男から別れ話を切り出す事は無くなる訳で、まあそういう面は男女にあると思うけど、相手のその部分に入り込めるかは、結構難しい。中略した部分にもっと凄い事が書いてるけど、それはさすがにカット。


伏見:
木村さんが賢かったというか、ブスでも人並み以上に色事を楽しんでこられた理由は、恋愛市場を海外に求めたところだよね。

木村:
そうだよね。欠点としてバカにされたこの出尻でさえ、それがとても喜ばれる国があるんだもの。ブラジルなんてケツオンリー。ケツ専ばっか!あの国の男はとにかくケツに性的魅力を感じるの。あと、このカエルっぽい顔も、タイに行ったら、またこれが大受けで、まるでお姫様のように扱われるんだもん。
《中略》

P2S2R&B:
Brandyも目が離れているのを気にしているけど、やっぱり一般的な解釈としては両目の距離はポイントなのかもね。Brandyはタイでコンサートしてるのかな



伏見:
そうしたら、木村さんって、母国ではないにしても、ブスでも美女の経験もあるというお得な人生!

木村:
そう、美味しい人生でしょ。私、日本でブスに生まれたことはよかったと思っている。それで世界が開けたからね。逆に、美人でモテル子ってだいたい男の価値観に合わせて生きているから自分の力で飛べないんだよ。
訓練されていないから狭い世界でしか生きられない。男あっての自分、という弱さを抱えているんだよね。それがまた男達を惹き付ける部分でもあるんだけどね。
《中略》
学生時代に留学とかして、ワールドワイドで飛んでいる連中を見てきたことで、狭い日本で、女を武器にして詰まらない勝負で一喜一憂している連中を軽蔑するようになった。海外に出て自信をつけるブスの女って多いと思う。


P2S2R&B:
「それがまた男達を惹き付ける」って喝破してるのが鋭い。一般的には「守ってやる」っていう態度をしたいからなのかな。


ということで、私のコメントで読みにくくなったと思いますが、とにかく面白かったです。立ち読みレベルではもったいない内容になってます。


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