「iモード以前」  松永絵里 岩波書店
[2005/05/28]

松永絵里という名前はどれだけ知られているのだろう? iモードが成功した当初はメディアの寵児になってた。テレビは見てないから知らないけど、経済誌にまで名前が出てた。そんな彼女が書いたiモード以前という本はずっと気になってた。成功体験を知ることも必要だけど、そこにまで至る道を知る事の方が参考になると思うから。「女性に勧める本」リスト作成中の身としてはねっ。 この本はこちらの期待以上の内容でした。

20歳まで、のほほんと生きてきた。
とりたてて得意な科目もない。スポーツに打ち込んだこともない。本もむさぼり読んだ記憶もない。
目標を持った事がないから、挫折もない。
高校受験も大学受験も、意識しないままにすぎた。


この文章から本が始まる。この時点で期待以上です。本当の意味で何を書かなくちゃいけないか分ってる。大事なのは本を読む読者が共感できる内容であって、「私がiモードを作る前には、」っていう書き出しじゃね。もちろん大学受験を意識しないで明治大学ってのはどこまで共感を得られるか分らない。けど、この本を読みたがるような女性ならセーフなのかな。


第一章が「氷河期の就職」
就職活動で挫折を味わったことが書いてある。
悔しさで、涙がでてきた。
落とされたからではない。私の人間性を否定されたからだ

けど、一番気に入ったのは、この部分。
私はリクルートから内定を貰った時、この半年間にわたって毎日書いていたノートを読み返してみた。
それまでは日記も続いたことがない。ところが、今回は違った。
毎日、2,3ページにわたってびっしりと書き込んでいた。毎日書くことで、あの理不尽さに耐えれるような気がした。企業からかかってこない電話を恨めしく待たなくても済むようにおもえた。その日にあったことや感じたことを、ただ綴っていった

やっぱり強く生きれるにはノートが必要なんだよね。日記という表現はしない。松永絵里もノートと書いててなんかちょっと嬉しかった。こういう情報は就職活動の前に知っておく方がいいかもね。もちろん他の部分も凄くお勧めです。


第二章が「スロースタート」
就職に苦労したのは分った。けど、就職してからはバリバリ仕事したんだろうなぁ・・・という読者の想像をまたも裏切る。うん、上手いです。何が上手いって
入社した初日から、がっかりすることが続いた。
ひとつは、ひそかにマークしていたSが入社をとりやめていたことだ。《中略》入社前に配られたアトラスに、サム・シェパードに似た芸大のSがいた。少しうつむき加減の写真がいい。そこはデザイナーだけあって、わずか3センチx4センチの写真でも表現力の違いを見せ付けていた。

いきなり恋ばなかい! それも失望。まったく俺もひそかにマークされてみたいよ、と歌えた人は将来R&B歌手の才能ありますw とギャグは置いておいて、面白い切り口。その後に後日Sと偶出会った事も書いてある。淡い想い出なんだろうね。こういう見せ方ができる女性と飯を一緒に食べると結構面白いと思う。男の子の為に教えておくけど、一般的な恋愛感情があって、それを想定しながらそのラインをかするように相手は喋ってくる。だから、「ごめん、僕の恋愛感情はちょっと違うんだ」ってそれをすかす。そしてペースをこっちにもってくる。それが上手い返し方です。(あれ?俺はなんか不味い事書いてる?この部分は後日削除しょう)

関という最初鳴かず飛ばずだった人が、どんどん伸びていく状況が描かれている。結構、社会人としても参考になります。また藤原という人も登場します。
また、藤原が入社六年目で最優秀賞をとった「情報誌の未来」は、リクルートの情報誌の本質を「網羅性、正確性、タイミング」という三つの柱で捉え、明言化するのに成功した。
言葉にして、初めて人は理解する。
これによって経営幹部も「情報誌とはそういうことだったのか」と納得するにいたり、情報誌の編集長に就く人間は、迷ったらこの論文を読み返して活路を見いだしたといわれる伝説の論文となる。

ほぇ、、、と言う気分。R&Bの本質をPlay&Pray, Sweet&Swearとしたけど、うーん、Deepさが無いから、これと比べるとイマイチだな。もうちょっとそこら辺は真面目に考えてもいいかもしれない。


やっと第三章が「春がきた」です。
とらばーゆに参加した時の話が書いてあります。
凍えるような寒さなのに、さも、春の日差しを浴びているかのように笑い、歩きだす。
「もう一回」「もう一回」
カメラマンの要請に、嫌な顔ひとつせず繰り返す。
ポラロイド写真でポーズ確認し、また新しいポーズをとる。
ただ綺麗な服を着こなすだけではないプロの姿勢を目の前でみて、私は自分の甘さを痛感した。風邪をひけば誰かが代わりに入稿してくれる。そんな置き換えのきくような仕事をやっているうちはまだプロとは言えない

うーん、自他共に認める美人でモデルになりたがっている人は、こういうのは知っておいた方がいいかもね。昔、誰かスーパーモデルが「本をよめ」と言ったけど、それはこういう出会いが本にあるからだよ。マイクタイソンもインタビューで「知識は力だ」みたいな事を言ったらしいが、同じです。

「私は伝えるだけの体験をもっている。伝えたいという熱意もある。ただ、伝える技術を持っていなかった。
だったら、伝える技術を身につければいい。私はその単純なことに気がつくと、早速、落語のレーザーディスクを三枚買ってきてプロの技を念入りにみてみることにした。《中略》まず、気づいたのは、演題にいきなり入らないということだった。ちょっとした小ネタを挟んでいって、場の反応を確認しながら、やおら羽織をとったあたりから本題に入るではないか。そうすると、聞く方も集中できる。講演の時は、遅れて入ってくる人もいるので、初めの数分は会場がざわついている。話す側にとっても、聞く側にとっても、これはいいことだということに気がついた。
料理だって、いきなりメインディッシュが出るわけではない。前菜が必要で、間をどうもたせるかが勝負なのだ。

なるほどねぇ。なんで、俺は文章で本題にイキナリ入らないんだろう。ぶっとんだ内容が多いから、そこまで行く為のステップを作ってるからかな。デザインの配置的に文章量が必要ってのもあるかも。真ん中だけ書いて終わりというスタイルも憧れているのだが。。

倉田という人との関係がいい
ときには日比谷公園まで遠出して、公園の中のフレンチレストランでコースランチを愉しむ事もあった。そんな時は、お互いのプライベートなことも語り合う。
「その後どう?」
と言ったら、つきあっている彼・彼女のことだ。私が25歳で倉田が27歳、とりとめのない話を長時間していられる年齢である。《中略》 「真理ちゃんはいま、潮の流れの変わり目にいるんじゃないか」自分の事がよく分らないのだから、相手のの心なんてもっとわからないよね、と私が話し終えた時に倉田は言った。「相手が分らないんじゃなくて、相手に求めてることが変わってきているんだよ」



4章では「予期せぬ異動」
社会人だからねぇ、誰でも経験したことがあるんじゃないかな?
けど、この章はそれよりも、青山のマンションを友達とシェアして借りていた情景の方が残る。
「ねえ、真理ちゃん。南青山に部屋を借りて、ふたりでシェアするのはどうかしら?どうせ結婚したら二度と住めないばしょだし、二年限定で住むというのは、独身時代のいい経験になると思うけど」《中略》
今度は私が提案する。
「安いので手を打つ事も出来るけど、どうせ期間限定なんだから、ここはニューヨークに留学したと思って、背伸びすることにしない?」

とまぁ、高嶺な話だけど、そう思う読者心理を読んで
紀伊国屋でりんご2個入った袋のコーナーを見たら240円と書いてあったので、1個120円ならいいと思って、二袋かごに入れたら、それは一袋の値段ではなく、100グラムの当たりの値段だった。レジで2400円と聞いた時はふたりとも顔が引きつってしまう。「え、一個600円もするの?」
今更結構ですともいえず、そういう手痛い失敗をしたときは、
「ニューヨーク、ニューヨーク」と唱えるようにした

というエピソードが登場したりする。やっぱりナイスです。


その後、リクルート事件での体験など色々と興味深い事が書いてあります。まだ半分だけど、全部紹介しても作者に悪いしね。この本がどんなテイストの本なのかはちゃんと伝わったと思うから。

地方から東京に学生時代に出てきた、ちょっと感性のある女の子へのプレゼントとしては最高だと思った。まあ社会人4年目で、地方在住で、オレッチにはそういう女性と出会う機会もありませんがw、これを読んでる誰かが、本を買って、読んで、色々といい刺激を受けて、プレゼントして上手くいってくれるのを望んでます。もちろん女性陣にもお勧めです。

アマゾンのコメントを見ると、ネガティブな意見があった。確かにリクルートは普通とは違う会社だから、社会人にどれだけ参考になるか分らない。学生時代にこの本に出合えた人は、運だけでなく、そのアンテナをかなり誉めれると思うよ。


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