「質問力」  齋藤 孝 ちくま書房
[2005/03/][2011/06]
 
コミュニケーション力を伸ばそうと思ったら、一番大事なのは「質問力」です。普通は「話題力」だと思われてる。けど、それは違うよ。「面白おかしく話す力」も違う。お笑い芸人がごれだけ活躍するようになって、誤解が増えているね。相手の深い部分を何処まで共有できるか?が一番大事なことであって、そのためには、相手が喋りやすい形に持っていく事が必須になる。そんな意味で、この「質問力」はドンピシャの本です。一部に同意できない事があるけど、読むのは必須。それは断言できる。


具体的
非本質的 本質的
×
抽象的

最初に出てくるのが、この図。質問とは「具体的」かつ「本質的」なものにすべきだという。その例として、TUTAYAのアンケート調査が載ってる。確かにイイ質問例になってます。すぐに抽象的な質問になる人は、あたまでっかちです。

ただ、自分自身に対しては抽象的な質問を繰り返す事が大事。この本では、「抽象的かつ本質的」な質問として、「あなたにとって生きるとはどういうことですか?」とか、「人生で最も大切なものは何ですか」「愛」とかの対話は不毛だって言ってる。確かにこんな質問は相手にふるべきじゃない。けど、自分自身では考えていくべきだから。もちろん斎藤教授は百も承知だと思うけど、「質問すべきじゃない」と「考えなくてもいい」の区別が付いてない人は多いから。


自分が聞きたい
相手は話したくない 子供ゾーン
ストライクゾーン

相手が話したい
聞いてみただけ
ゾーン
気配りゾーン
大人ゾーン
おべっかゾーン
自分は聞きたくない

この区分けはナイスだと思う。ただ、子供を例にした発言は教育者失格モノでしょう。子供は自分が疑問に思うことをやたらと質問してくる。しかし大人はうるさくて答えるのにうんざりしてしまう。「テレビは誰が発明したの」と聞かれてもわかるわけがないし、興味もない。しかし子供はしつこく聞く。相手の事業や文脈をあまり理解してない自己中心的な質問といってよい ってねぇ、可哀想に。子供は誰でも自然な探究心を持っている。けど、子供の「何故?」が三回続けは、今の最先端の研究課題になるって文章をどこかで読んだ事がある。そこに完全同意です。「なぜ太陽は赤いの?」「燃えているからだよ」「なぜ燃えているの」「核融合がおこっているからだよ」「なぜ核融合がおこっているの」 その理由は誰も分からない。(水素と自らの重力によってとかは答えれるが

核分裂と核融合は原子番号の真ん中に向かって、それぞれ起こるらしい。紅茶とミルクが混ざるように、平衡になっていく事と同じなのかな? とにかく、子供の疑問には素直に答える。どうしても分らない疑問があれば、「それが今の最先端の課題なんだ。知りたかったら、それを突き詰めれる大人になってくれ。パパも応援するぞw」って言うべきであって、こんな方法じゃ絶対に齋藤孝の息子は理系分野に興味がもてないだろうなぁ。だって、ばっさり理系分野の質問を切り捨ててるんだもん。可愛そうに。

「気配りゾーンは、大人ゾーンでもあるけど、おべっかゾーンにもなる」と喝破しているのは流石です。おべっかにならない気配りができるのが大人です。

この本にもあるように、「うなづき」「あいづち」「言い換え」が大事というのは、凄く納得する。まずは相手の言う事にうなづく事。これはLevel0=常識ぐらいの必須度数です。 次のレベル1がこの本にもあるように、「オウム返し」です。 相手の言った事をそのまま繰り返すなんて単純すぎるけど、かなり効果あります。ただ、棒読みになってもしょうがないからねぇ。声のトーンを変えなくちゃいけない。ここが腕の見せどころです。

レベル2が「引っ張ってくる」って技です。「先ほど言われた○○とのことですよね」って記憶力を使って、コメントする。これもそこまで難しくないが効果は大きい。自分もよく使うしね。
もちろん「言い換え」が一番大事です。「それって、こういう角度・状況から言えば、○○っていう事でいいのかな??」っていえれば、自分が理解したのを相手に伝えれるしね。

この本がクールなのは「先ほど、古田さんは野球にはコツがあるとおっしゃいましたが、古田さんの打撃が、劇的に変わった瞬間って何度かあると思うんですけど、最初は何ですか?」という質問をとりあげてる所です。プロでこれほどの名選手になる人は、ある時、劇的な変化や成長をしているに違いない。 変化について語るのは非常にやりやすい。相手に変化前と変化後を比較させて話させればいいからだってまとめているのもナイス。

ただ、変化前と変化後を対比できるには、それなりの時間が前後にも、考えるのにも必要。5歳と6歳の変化を7歳に聞いてもしょうがないからねぇ。その点では社会人の前後とかはいいかもしれない。この質問に対する古田の答えも凄い。興味ある人は読んでみたら? 


「いきなり本質を聞く」方法では、村上龍と社会学者の小熊英二の対談集から抜粋してる。これがまたいい。

「なんだか村上さんは、自分で風を起こして浮いている凧みたいな感じがするんです。その凧には「龍」とか書いてあったりするんですけど(笑) 誰も風を起こしてくれないから必死に動き回って自分で風を起こす事で浮いているみたいな感じがする。でも、くるくる回ってしまわないように、舵取りのためのしっぽがついてるんですよね。村上さんが次から次へと探してくる題材は、しっぽの役目をしているような気がします。なんだか変なたとえで恐縮ですけど」
「いえいえ。でも小熊さんはメタファーもお上手なのに、論文では一切そういうことを書いてない(笑)」
「では凧ついでにもう一つ聞いてみたかったのは、その凧が着地することがあるのかというか、村上さんにとって、安住できるような共同体は果たしてあるんでしょうか?」

村上春樹と村上龍を両方かなり好きな人っているのかな? オレッチは春樹派で、龍は苦手でした。自分の似て欲しくない部分が似てる。灰汁の強さを作ってる面かな。なんかそんな気がする。けど、この本をよんで、龍のことがよく分った。この喩えはクールかつ最高。いきなり「貴方が安住できるような共同体は果たしてあるか?」って聞いても、本質的で具体的すぎるから答えを聞けない。元々親友同士ならともかく。それを、本人が泣いて喜ぶような喩えをすることで達成してる。それが一番凄い。こういうのを、才能と呼ぶ。

これを読みながら、なんとなく大学時代を思い出してた。

「で、あの娘と上手く行った?」
「いや、返事が来ないから。ダメだろ」
「どうせまた、アホな会話したんだろ」
「オイオイw 人を本気で見ようと思ったらどうするか知ってる? 湖と一緒なんだよ。湖の水深を測るには、石を投げ入れて、それがいつまで見えてるかで測るじゃん。 それと同じことをするんだよ。ただ、石によって波ができる。人の心ではその波が正円で広がらない。その広がり方で性格の違いが分る。波がどれだけ保持されるかで拘りも分る。もちろん石が底まで沈むだけの重みが必要なんだけどね」
「あんたの理論は嫌いじゃないんだよ。よく出来てる。けどさ、その石が相手にとって大きすぎるかどうか、考えたことあるか?」
そんな友人関係だったです。

あの時は「俺には小さい石だからいいじゃねーかよ」って素直に聞けなかったけど、言われた時の事はよく覚えてる。最近はやっと、「観測行為自体が相手を変化させる」という原子物理での鉄則を思う。湖をずっと見てれば自然に風で波立つ事があるから、無理やり波を起こす必要も無い。相手の深さも、じっと見つめていれば底にあるものが見え隠れする時がある。そんな意味では、無理に石を投げ入れる必要も無い。こちらの方がナチュラルな面をちゃんと掴まえれるから相手の本質に近くなる。ただし、石を投げ入れて測る事よりも難しいし時間もかかるから、なかなか昔は出来なかった。違うな。正直に言えば、単にイヤな奴だったんだね。


その後、ウタダヒカルとダニエル・キイスの対談集を引っ張ってきてる。相手が言ったことに対して「どうしてか?」と聞き、その答えに対して「わかるよ」と受け取る段取りは共感系の基本作法である。 「それ違うんじゃないか?」と答えてたのは、どこのどいつだ?? うーん、「わかるよ」って答えたく無くても、とりあえず、「わかるよ」と答えること。それはやっぱりイヤだぞ(オイオイ だから、最近は、「たしかになぁ」って答えてる。「わかる」はイヤだけど、「たしかになぁ」ならセーフ。その微妙な違いが個人的には大事かな??


本の最後はブラックを追っかける人の必須、アレックス・ヘイリーの登場です。ここのポイントはかなり難しいので、かつ、全部引用して本の売り上げを下げるのは礼儀を失すると思うので、コメントなしで(笑
[Weekly Comment 2006/01]

アンケートにご協力いただきありがとうございます。
以前の「貴方にとって音楽を聴くとはどういう意味ですか?」っていう質問が質問力的に良くない事を分かりながらも、「個人的に聞いてみたい」と書いてた。けど、今日、たまたま仕事でファシリテーションについて調べてたら、「貴方にとっての夢は何ですか?」という質問は根源的だから、「貴方が幸せを感じるのはどんな時ですか?」の方がいいって書いてあった。

それには確かに納得かも。

だから
■【音楽に関することで幸せを感じるのはどんな時ですか】
って項目にしました。こちらの方が具体的な情景が浮かんでくるからいいよね。


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