あなたと読む恋の歌 百首 俵万智 朝日文庫
[2006/02]
 

「全存在として抱かれいたるあかときのわれを天上の花と思わむ」 道浦母都子

出会いから別れまで、恋愛の様々な過程で短歌は生まれる。どの段階の歌が最も多いか、あるいはどういう状況のものが多いか、統計をとったわけではないが、上位はおそらく、失恋や別離の歌ではないかと思う。私自身、心に何か満たされない部分があると、そのマイナス部分を埋めようとして、創作のエネルギーが沸いてくるという感じがある。《中略》提出歌に出会ったとき、こんなにも満たされきった恋愛の歌は初めてだと思った。最も充実した瞬間を、堂々と歌い上げている。

俵万智のことは「サラダ記念日」の頃から知ってた。小学校の頃に本が置いてあったから。あの頃から百人一首をそらんじていたので読んでみた。けど、そんなにガツンとは来なかった記憶がある。

けど、この「あなたと読む恋の歌 百首」は凄い。書評欄を見て気になったから買ったけど、信じられないレベルの歌を集めてる。その中でも最初のこの和歌が凄い。百人一首の恋の和歌でMaxはこちらだと思っているけど、この和歌の方が確実に上でしょう。


「いつかふたりになるためのひとりやがてひとりになるためのふたり」 浅井和代

《中略》希望は絶望を含み、絶望は希望へとつながり、幸福は不幸を含み、不幸は幸福へと繋がる。人生において対立するかのように見えるものは、実は同じことの表と裏なのだ。そんなふうに捉えることもできる。
小学生でもわかるようなやさしい言葉で書かれた歌だが、読む人の人生経験や心の状態に応じて、無限に悲しくも嬉しくも響く一首だ。

チャーリーの所で「独りでいられない奴はふたりでもいられない」と書いたけど、こちらの方が深い。口語自由律すぎるけど、この深みの方が上。この確かに、下の句まで含めてこれが事実なのだろう。ただ一つだけ。この世の全ての対立概念は極限をとったら同じになる。表と裏の関係じゃなくて円環なのだと思う。これについては以前に書いたけど、Linkしてない。書き直して、いつかUPするかも。


「赦せよと請うことなかれ赦すとはひまわりの花の枯れる寂しさ」 松実啓子

《中略》裏切った人間を、ゆるすのとゆるさないのと、どちらが愛情が深いだろうか。一般的には、ゆるすほうが、相手を理解し、心を優しく広く持った結果と考えられるだろう。家族的な愛や友情においては、そうかもしれない。が、恋愛においては、思いが深ければ深いほど、ゆるすことはできないのではないかと思う。つまり、もし「ゆるす」という気持ちになれたとしたら、それは何かをあきらめ、何かが終わったということなのだ。その事を、提出歌は言いあてている。ゆるしゆるされるとは、恋愛関係のピリオドなのだ、と作者は考えている。それはまるで「ひまわりの花の枯れるさびしさ」なのだ、と。
《中略》
ゆるすよりもゆるさないほうが、愛をあきらめるよりも愛しつづけるほうが、多くのエネルギーを必要とするだろう。傷つくことや疲れることを恐れていては、恋愛は、できない。

これはAngieのMad Issues以来かも。。
そろそろ俺は赦されているんじゃないかと思う男性を一刀両断。このハンマー度合いがMad Issuesと同じだ。ただ、これは男性にも当てはまるのかな? 素直に言えば、この歌をみて、、、昔より分らなくなった。


恋愛の歌の中で、セックスそのものを歌ったものは、比較的少ないように思う。表現の工夫を歌人が競い合うというよりは、「逢ふ」や「寝」や「抱く」という動詞が、わりと便利なものとして使われてきた。
こんな説明がされている、大辻隆弘の和歌はかなり凄い。まじ、びびった。男なら一度は目を通した方がいいと思う。特にこの下の句が。同性の上手さに嫉妬することはあまりないけど、これは確かに上手い。と、あまり紹介してもなんなので、気になる人は買いましょう(爆 

そうだねぇ、なんというのかな、もし年に一作、本HPが年下の男の子に対して強制できるのなら、「この本は買うべき」ですね。こう言ったのも初めてだけど、それ位に凄い。Loversコレクト集はかなり頑張っているが、あれを越してると本人は認めたくないが、やっぱりこの本の方が凄い。caseとか収録してないのだから、Lovers2をそろそろ本気で考えないと行けないな。ちなみに、年上に対しては以前書いた理由により俺は発言権なしです。年下の女性? 女の事はやっぱり分らん。この本を読んで改めて痛感した。言えないことは言わない。

ちなみに3週間前ほどにこの本がアマゾンから届いたけど、まだ全部読めてない。それ位に一首一首が重い。

「あなたと読む恋の歌 百首」を全部読みました。まだまだいい歌が沢山ありました。あんまり引用すると失礼なので、読んだ人に分る形で。

紀野恵の歌は「たとふれば」から始まっており、そこに深みがあるね。恋愛が終わった後に友達になれる形と、全く連絡をとれなくなる形があるとすれば、、、作者のように後者のタイプには全員にお勧め。

岡野弘彦は見事にSinkです。Sisqoの所ではわざとハッキリ書かなかったけど、振られるのがSinkではない。その時に他の男へ今夜行く事を聞かされるのがSink。そんな振り方するなよ・・・とは思うけど、現実はいつも想像の上を行く。SisqoはそれをHolding Youと二つの曲に分けたけど、当然だと思ってる。一曲に詰め込んだら心が破裂する。けど、この和歌はそれをやってる。「50代の恋であり、をとめは年若い女性だろう」って解説があるけど、その歳でその年齢差じゃないと絶対に出来ないと思うな。

女子高生に一番人気の栗木京子の和歌は確かに納得。「君には一日(ひとひ) 我には一生(ひとよ)」という語呂がいい。歌自体はあまり男性陣は感じない種類だと思うけどね。そういえば、会社で昼飯中に「ホリエモンがマガイモンなんて皆知ってた話だろ」とか言ったら、古舘ばりと同期にウケてた。やっぱり韻を踏む努力はした方がいいかもしれん。

石川啄木の「一握の砂」は読もうと思ったことある。けど、まともに読んだのは智恵子抄だけな気もする。太宰や中原中也まで行くとなんか読まないタイプなので。「大切な言葉」をどう取るかで、歌の受け留め方が変わる。普通は「スキ」だろうけど、個人的には違う。啄木本人としてはどちらなのだろう?一握の砂はいつか読もうかな。

山崎方代(ほうだい)の歌は確かに凄い。恋の歌が無く、生涯独身だからこそ、唯一の恋歌の意味がある。これはカッコいいから、書こう。

「一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております」
こんな手触りの曲があるなら、ぜひ聴いてみたいです。R&Bにも誰か1人ぐらいは絶対に恋をテーマにしない歌手がいてもいい気がする。

辰巳泰子の歌は松実啓子と正反対。こういう謝り方が出来るようになったら、裏イイ男ランキングはかなり上位にくるだろう。「死んでも赦さない」と「謝られみたされてしまふ」の、相手がどちらの状態か分らないのがアホ男というのも真理かな。

で。
30歳以上の未婚女性に捧げるのが河野裕子です。これを一見、若い女性が共感すると思ったら、そいつは国語-100点だろう。男性陣で一首あげたので、女性陣で一首追加で選ぶなら、女子高生チックな観覧車よりもこっちだ。

「たとえば君 ガサッと落葉すくふように私をさらつて行つてはくれぬか」

これは凄い。俵さんも「果たし状のような迫力をそなえた、渾身の恋の歌だ」と仰るとおり。Shaniceの新作にこんな手触りないかなぁ。間違いなくこの果たし状っぷりがKelly Priceの1stと同じ。あれをガンガンに聴き込めるとKiss Testに「そろそろだと思ってたよ」と返し技があるように、この和歌にも返し技があると思う。俵さんは女性だから知らないだろうなぁ。って、本当に返せるかどうかはKiss Testと一緒で分らないけど、ここで一言も発せられなかったら、完全に向こうのペースだろうね。って、こういう場面で返し技返し技とか言ってるのも、かなり問題児なんだが。


藤井常世の歌はCarl Thomasの1stのような独り男感がある。あのアルバムを聴きこんでた23の頃は、まさか28になってそのまんまになるとは思わなかったから、最近聴きたくないんだが。。

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ということで、いい本です。やっぱりこういう本を読まなくちゃね。

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