恋愛Deep
[2002/09/28]

今のR&Bとその方向性を一言で言えばこれになる
ここ数年、そうずっと思ってきた。MaryJ.がSoulの女王として認知され始めてから、少しずつ。だから周囲に貸す時も、30枚ほど貸した位から、MaryJ.を薦める。その時は、No More Doramaか7 Daysのビデオクリップのどちらかは見てもらうように心がける。じゃないと、上手く伝わらない面があると思うから。

恋愛の痛みを抱えている人なら、7 Daysで一発で分かる。そうじゃなくても、少しでも良心があれば、No More Doramaでストレートに伝わる。曲が進むにつれて、口はどんどん閉じていくし、目はどんどん開いていく。で、曲が終わると、ほっとする。それ位に引きずり込むビデオクリップだから。Janetのビデオに「お、いいね、これ」って言う人の割合と同じくらいに、鷲掴みするモノがある。


家に帰ってきた旦那の上着から、お店のマッチが出てきた。これをDeep1としよう。
扉を明けたら、ベットに他の女がいた。 これはDeep10だね。

そしたら、MaryJ.が持ってるのはDeep100だよ。

って説明する。 そしたら、「100ですか???」っていつも言われる。だから、「うん、100だと思う」って答える。もちろん「何が起こったら100になるんですか??」 「うーん、それは分かりやすくは説明できない。けどやっぱり100だよ」って答える。だからMaryJ.の歌には救いがあるんだって。

すみませんm(_ _)m 実は周囲にはこうやって勧めてました。
全く、こんな方法でいいのかしらんとたまに思うけど、これが一番ストレートで伝わりやすい説明だと思うんだよなぁ。そしたら、以前、「あ、100は無理だけど、30なら思いつきました」 「え、なになに」 「扉を明けたら、男と二人で寝てた」 「あちゃーー確かに30だねーー」って事もありましたw


凄い体験をした人が、凄い作家になる訳じゃない
どっかの短編かなにかで村上春樹が言ってました。それを読んだとき、なるほどなぁ・・・と妙に納得した。確かにある種の蒸留期間は絶対に必要なんだろう。それだけでなく、いつか「あの時は・・・」って、俯瞰できる視点が手に入るような、そんなサイズを越したら、不可能だとも思ったから。全ての体験が生きてる間に結論が出る訳じゃないと思ってる。

けど色々考えて、作家と歌手はまた違うと思い始めた。結局、叫び声や呻き声を出してしまう地点まで踏み込んで、そこで逃げなければ、それだけでなんとかなるんじゃないかと思い始めてる。ってもちろん曲の制作に関する全てを横に置いた意見だけど、蒸留期間は絶対に必要だけど、再構築を求められる作家とは違うんじゃないかと今は思ってる。


なぜ、R&Bか?  って質問には、やっぱり黒人が歌っているから って答えたし、そこに何か特別なものを感じたからこそ、ずっと聴いてる。けど、今、彼らとして特筆すべきものが減ってきているのも確かだろう。もちろん、まだまだ差は多い。けど、60'S 70'Sのようなハチャメチャな事は無いと思う。コンセンサスとして、もうSoulというジャンルは無いのだし、それは黒人が一つのジャンルとしてほど生み出せなくなってきたからなのだと思う。そりゃソウルフルと形容されるシンガーもいるけれど、全体としてジャンルを構成できるほどでは無いのだろう。ホントの優しさは辛さの底からしか生まれない。だからこそ、今は恋愛Deepなんだって。だからMaryJ.がSoulの女王なんだって、そう薦めてた。

極度に単純化しすぎて、ステレオタイプすぎる話。もしくは、ある意味、暗黙の了解かもしれない。
こういう話をすると、「なーんだ暗くて詰まらないだけじゃん」って感じる人もいると思うけど、それは大間違いだよ。きっとその人は本当の辛さをまだ知らないんじゃないかな

前に進んでも辛い、後ろに下がっても辛い、その場で堪えていても擦り切れてく
逃げれる辛さは辛さじゃねーよ。「前門の虎、後門の狼」じゃないけど、こんな状態って、一度や二度なら生きててあると思います。そりゃ世界には昔の黒人以上に大変な境遇の人達もいると思う。けど、音楽として表現として、それが世界にちゃんと発信されることも稀だと思っちゃう。確かに、Soulの時代と今は大きく違う。ただ、「前を向いて歩いている」って点は連続性があるし、それがあればいいんじゃないかと思ってます。

何度かR&Bのブームが日本にやってきたけれど、今回はやっぱり違うと思います。
日本の一億総中流意識がなくなりつつあるからって面もありますよね
こんな話を以前、HPで知り合ってお世話になってるオネエ様とした。きっとMaryJ.を見てきた黒人の女の子は、何が必要なのかはっきり分かってるんじゃないかな。

そんななんなで言うと、分かってるからこそ、モニカは歌にしてる。やっぱりそれはMaryJ.の影響だろうし、やっぱりMaryJ.は新たに再定義したと思う。そりゃ、R&B全体としてはもっと色んなタイプの人から成り立ってる。彼ら自身としても、R&Bの定義はさまざまだと思うし、プロデューサ達のR&Bの定義もさまざまだと思う。だから、細かいことは気にせずに気に入ったものを聴いていけばいいと思う。

ただMaryJ.から始まる流れは明らかに一つの潮流をつくり出してる。恋愛が題材の曲ってのは大多数なんだけど、MaryJ.のスタイルには「突き抜ける」があるから。そしてその先に「光が差し込む空」がある。そんな意味では、恋愛が「道」になってる。この「道」という感覚が何か、ここんとこ凄く拘ってます。
    
人間以外に存在するTruth
 しかし、和訳の本当の問題は、"spiritual"の方にある。この文脈では"spritual"は「精神的」ではない。"spiritual tramp"という言われ方には、むしろある宗教的な意味がある。善かれ悪しかれ、一般的なアメリカ人---「神様」の存在なんてばかばかしいと思うアメリカ人も含めて---は、大文字で書くTruth(真)という絶対的なものがどこかにあると思っている。そして、それは自分という人間の外に存在するものである。人間は真面目に良心的に考えれば、Truthfulな生き方が分かり、それに忠実に生きたい、あるいは、もっと厳密に言えば、人間には、自分の分かっている範囲で忠実に生きる義務がある、という妙な思想である。これは、アメリカ人一般の暗黙的な前提と考えてよいであろう。
《中略》
某女子大の文学サークルは、そのところが読みとれなかったと思う。まず英語の意味としても"spiritual"を「精神的」としか受けとめようのない学生にとっては、サリンジャーのいう"spiritual tramp"という表現の真の意味が正確に読めるわけがない。しかも、その表現が示す「思想的前提」も、彼女たちにはとくに自分と関係ない「こだわり」であろう。

マーク・ピーターセン著  「続 日本人の英語」  岩波新書

[2003/03/08]

突然の引用ですみません。けど、この「正しさ」という感覚は、かなり重要だと思います。数百枚と聴きこんでいくと、彼らは人間の外に絶対性のある人格的存在を想定していると感じるから。それをGodと表現されると、確かに少し違和感が生まれる。けど、曲を聴いてるとHeavenly FatherとかLordと表現してる方が多いと思う。こちらの表現の方が馴染み易いとは感じる。そして日本生活が長い著者は日本人の宗教的無関心について寛容だと思う。だから「妙な思想」と表現してくれてる。けど、それは別に妙でもなんでもないと思う。

絶対的なものが無い分だけ、日本人には善悪の感覚が薄いといわれたりする。それも確かに同意してます。けど、日本人に全くこんな手触りが無い訳じゃないと思う。結局、ここら辺に一番近い言葉が

歩くべき道
だと思うんだよね。道の終着点は多分一つなのだと思う。けど、そこに行くまでの軌跡は人それぞれ。そして、その道も絶対的なモノではない。歩かなくちゃいけないモノではない。それは「歩くべき」モノなのだと思う。だから、善悪でなくべき論の世界。 歩く人は輝ける。歩けない人は「そりゃ俺もそうだよなぁ」って同意される。そんな感じじゃないかな。日本人は何でも「道」にしたがるというのは正しいと思う。柔道・剣道から始まって料理道などホント様々だもんねぇ。

MaryJ.を聴きこんで見えてくるのは彼女の生き様であって、それは道として表現するのが一番ぴったりくる。恋愛で正しいことなんて、一人の相手を愛し続けるみたいに:そりゃ決まってるけど、それを完全に選択し続けれたらとっくの昔に人類は滅亡してるってのも一理はある。献身・博愛なんてのは恋愛に持ちこんでもどうしようもないからなぁ。だから、ほれたはれたに浮気に嗚咽にと色々あった訳だけど、MaryJ.の体当たりな生き様は、ある種の新しい感覚を持ちこんでいる気がしてる。
だから、Tyreseとかには「道」って言葉で形容したくなる。R Kellyも。この先、まっすぐ進んでくれるのなら「道」って言いたくなってくる。人間は真面目に良心的に考えればTruthfulな生き方が分かり、それに忠実に生きたいってのは文化とか関係無く当然だと思うから。

ということで、「絶対的なものが生み出す正しさ」「人の弱さを踏まえた道」との間に何か答えがあるんじゃないかと思ってます。MaryJ.だって惚れた男に一生捧げたみたいに綺麗に生きてきた訳で無い。彼女が1歩踏みとどまればもっと違った選択肢も手に出来たと思う。けど、やっぱり彼女が一番輝いているから。そして今後はどうしても生れ落ちた境遇よりも恋愛経験のウエイトが大きくなってくるのも確かなんだよね。そしたら人の弱さにより焦点が当たるんじゃないかな。だからこその「恋愛道」

実際、どんな恋愛でも、例え何が起こったとしても、自身の糧にできるし、彼女はこれで確実に女を上げたと思う。というよりSoulの女王までのレベルだから、マジ凄い。

泥沼の恋愛でも、見詰め直す事で自己の尊厳を保てる事を示した傑作

こんな風になっていくのだと、、、なんとなく、今思ってます。



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