Isley meets Bacharach
アウェイでの歌いっぷり
[2004/06]

2003冬、御殿場から富士山に向かってドライブしてる時に、買ったばっかりの本作を流してた。そしたら「こんなの流れてたら絶対寝ますよ」と後輩からつっこまれた。その時は「まあねぇ。寝ずに全部聴けたらR&B初段はあると思う」と相変わらず適当な答えをしておきましたw 皆さんの言う通り、雰囲気のあるレストランで流すのに凄くぴったりくるアルバムだと思う。最初からそこを狙って、Isleyを連れてきた面がちらほらするから、"Eternal"のようなロンの全開さは感じない。けどこんなにスタイリッシュに声を纏めれるのか・・・って感動しました。PVではタキシード着てることも多いけど、初めて声にも感じた。U-senの選曲はナイスだと思うけど、ディナーで5000円ぐらい出す店なら、この曲のような拘りの音楽を流して欲しいです。そんな意味では狙った所はちゃんと抑えてる作品だと思う。

ホントのこと言うと、あまりの名盤は2人で行くような店では流されると困るンだよなぁ・・・
「どうしたの?しばらく黙り込んでて」「いや後ろで流れてる音楽を聴き入ってただけだよ」
ここで「2人で来てるのに勝手な人」とか出されると、「今のこの関係は名盤以上の価値は無いじゃん・・・」って気分になって、その瞬間から歯車がずれはじめる。そこで「ホントに好きなんだね」が出てくると、「ああ・・・ごめんナ」ってなる。"ああ"と"ごめんナ"の間は歳を重ねるごとに笑顔が出てくるようになったけど、そもそもこちらの流れになる事の方が断然少なかったから。もちろん、これらが同列に並ぶのが一番の問題だけど、それは本人もよく分かってない。ただ、ある種の人間にとって、ある種の歌は乱暴なほどに力を持ってる。若い時ほどそこに選択の余地はなかった

だから部屋や車じゃ名盤すぎるのは流さなかったけど、ふっと店で流れてくる方がやっぱり力を持っていて・・・ だから店で流れているのはこれぐらいがちょうどイイと思う。
そしたら「綺麗な曲だね」「うん、けど彼らはもっとイイ曲も作ってるんだ。綺麗さはないけどTrue Loveはある。聴きに来ない?」 うーん最後の方は書いてる自分で突っ込み入れてしまいましたが、そんな事はある。

実際、「なんで私とアルバムが同列に並ぶのよ」って聞かれた事は無い。けど、もし聞かれたら「R KellyのLookin' For Loveって曲がある。男の真の恋愛は後悔から始まる。それをダイレクトに伝える曲。その中でも一番深いのが1:58"you gave me direction "ってフレーズだから。突き詰めると恋愛だろうが音楽だろうが、これだけになる」って答えたと思う。そう思ってたからこそ、「いい女は方向性に対してキスできる」って言葉が浮かんできたし、Marvinの問題作中の問題曲でも、結局、これを彼は望んでいると思ったから。

大学時代、友達と話しこんだ事がある。
「結局のところで、どんな女性だったら本気になるんだよ」「うーーん、こんだけR&Bにハマってるのを分かった上で、「もしこの世にR&Bがなくなったらどうするの?」って質問する人かな」「・・・・」「そしたら俺は笑顔で"今まで自分に染み込んだ曲を鼻歌するよ"って答えると思う」 どんな時でも、その時だけは自分の笑顔のMAXが出るって言えた。だから間違ってないと思ってた今までだった。そんなちっぽけさ。

だからこそ、このアルバムを聴いた時は辛かった。自分の死角が抉りだされた。普通に見れば「店で流すための音楽」でしかないのに、この半年、ふっと取り出しては聴きこんでた。誰が聴いても傑作にならないのは分かってる。窮屈な空間に押し込まれ、ロンは羽をもがれた状態になってる。

けど、それはロン自身が前向きに受け入れた事なのかもしれない・・・
聴きこむ程にそう感じる。それくらいにロンは相手に合わせてる。その相手は突き詰めればBacharachじゃない。この歌を聴く、R&B親和性が無い人達だと思う。だから、こんなにも優しくて、こんなに聴いてて辛いのだろう。

ロンを初めて聴いたのはR Kellyの曲で客演してた時。密かに恐竜星人だと思ってたから、Eternalで真のSoulが分かった。そして、Body Kissで器の大きさが分かった。そんな彼の全てが、このアルバムにもつまってると思う。そう感じる程に、僕はロンに男惚れしてんるんだね。


全開にできない、制限された地点でこそ、本当の良さが分かることってある
まともな男なら普段が優しいのは当然だと思う。けど、本当に良さが分かるのは、忙しくて余裕の無い時だから。そんな時にこそ、本当の相手が見える。このアルバムはまさしくその通りだと思う。6:the Look of Loveとか引っ張られる。9:Close to Youもそう。GeraldとTamiaもデュエットしてたけど、あちらは大げさにしすぎてた。このロンの方が数倍上でしょう。2:Raindrops Keep Falling On my Headとかもそう。一曲で取り出せば、どれも傑作にはならない。どんなベストを作っても、このアルバムから選ばれないのは分かってる。けど、このアルバムとして聴けば、間違いなくアホな男への指針になってる。

ずっと憧れはO'JaysのFor the Loveだった。けど、あのアルバムは全開にできる地点で、全開にしてる。だからこそ傑作なんだけど。このアルバムは違う。そして、自分に一番足らないのは、こちらのアルバムということが分かった。このアルバムを聴き込めば、本当の意味で相手に合わせるという事が分かると思う。その実感が少しずつ染み込んでいた数ヶ月だった。



こんな視点から見るならば、この世に駄作はなくなるし、「物事は心の持ちようで決まる」というのは正しいと思う。けど、やっぱり自分は駄作は駄作として存在すると思うし、このアルバムは傑作だと思う。その分水嶺は責任感と覚悟じゃないかな。与えられた曲に合わせること、それはデビュー時から常につきまとう話だろう。けど、本作のようにその中でも傑作を歌う人は、「売れなかった時の責任転換をしない」と思う。自分自身で背負う覚悟がある。だから、これらの曲のように容量が少ない所に全部を詰め込もうとして、Soulが溢れてる。曲は一瞬たりともSoulをリードできてない。そんなハッとする瞬間はない。けど、この溢れこぼれる感覚は悪くないと思う。そんな点がRhonaKANDIとは違う。

見事に復活したR Kellyだが、もし彼があのままスキャンダルで潰れていたとしても、きっとロンはBody Kissで彼に任せた事への弁解なんてしなかったと思う。このアルバムを聴き込んで、そんな気がした。
アルバム点数はこちら


HOME