Donell Jones
"Where I Wanna Be"
喪失感というよりも《敗北感》
- 勝負すべき時に逃げてしまい、帰って独り後悔してる -
[2006/02][2010/10]
 
「Donell Jonesを好きというR&Bリスナーはどれぐらいいるのだろうか?」
こんな設問を立てた時、あまり多くいない気がしてる。

「Donell Jonesの大ヒット曲 U Know What's Upを好きな人はどれだけいるのだろうか?」
けど、こう聞けば、R&Bリスナー全員が好きだと思う。それ位に本曲は大ヒットした。これから幾年経っても、90年代のベスト曲を作ったら収録されるんじゃないかと思う。そんな意味で本作はJoeの2作目に近いと思う。あの作品にも大ヒット曲:All the thingsが納められているから。同じように時代を作った一曲を持ちながらも、Joeを好きというR&Bリスナーは沢山いて、Donell Jonesを好きという人はあまりいない。

JoeとDonell Jonesの何が根本的に違うのだろう?
昔からそれが良く分らなかった。お互いの大ヒット曲は同じくらいに凄い。このU Know What's UpのVCも、本人が適度なエロ顔してて、R&Bの王道路線だしね。だから問題はそれ以外の曲なのだと思う。3作目の紹介をした時もそう。この作品をそんなに誉める人もいないだろうなぁ、、、と思いつつも結構気に入ってた。その後、この2作目を買って聴いて、やっと「緩やかな敗北感」という言葉が浮かんできた。

けど、この言葉自体の共有性が高くない。そこが本HPで強力PUSHする作品と違う。リスナーが心の底からファンになるような、そんなタイプの歌手じゃない。アルバムコーナーに一言欄をつけても良かったのだけど、Donell Jonesを正面から取り上げている文章が少ない気がしてて・・・だから此処に書く事にした。


「敗北感」と書いているけど、そんなに強い意味じゃないです。

あーあ、あの時もうちょっと頑張れば・・・
っていう感覚で、本気の勝負で負けたTommy Simsとは違う。元々、U Know What's UpのVCから知ったから、このジャケを見て凄くびっくりした。ギターに拘るのは分るけど、このカントリー歌手みたいなこのカーボーイハットやポーズが売れ線とミスマッチすぎる。哲章さんが言う通り、Donell Jonesには裏方感覚が濃厚にあって、そんな面がストレートに出たジャケだね。

歌詞として恋愛を歌っているけど、恋愛は喪失感だから間違っても敗北感では無い。なのに、Donell Jonesには喪失感じゃなくて敗北感を感じるから。結局、本当の所で、この人は恋愛を歌っているのだろうか?という気分になる。


逆に喪失感について知りたければCaseを聴けばいい。あの作品が発表されて随分経っているけど、同じ方向性でそれ以上の作品はまだ無い。この先、ずっと無いかもしれない。それ位の喪失感なんだよね。何よりも、喪失感を突き詰めて、ある種の爽やかを達成しているのが凄い。だから、アルバムの最初から聴きやすい。そしてトコトン深みのある作品になっている。

喪失感っていうのは、好きだから心を持ってかれて、触れ合ったから肌を持っていかれて、この先どうすればいいか分らないから背骨と視線を持っていかれ、残ったのは醜い肉の塊。そんな感覚なのにCaseはそれを突き詰めて、I'm the desert without the sandと歌ってる。これはやっぱり無茶苦茶なレベルです。だからCaseを好きな人も多いと思う。けど、残念ながら、Donell Jonesにはその突き詰めが無くて、喪失感まで行けてない。


勇気が無くて告白する前に、他の男子と付き合いだした、そんな女の子への気持ちを紡いでる
きっと泣く勇気さえなくて、自分自身の心に言い聞かせて、そして諦めたんだろうね。こういう恋愛経験がある人には間違いなくお勧めです。喪失感というよりも敗北感。それも正面からの敗北感じゃない。こんな微妙な感覚こそが、Donell Jonesの独壇場です。



3:Where I Wanna Be
大ヒットした曲がありながら、タイトルは別にするのもJoeの2ndと同じだ。このアルバムタイトル曲はかなり好きなんだけど、これだからこそダメなんだと感じる。なぜかって、「そこに女性が来なかったらどうするの?」という素朴な疑問に、この曲は答えれないと感じるから。Whre I Wanna Beは本人が理想としてる恋愛の状態を歌っている気がするけど、どうしようもなく独りなんだよね。

U Know What's UPを除けば、一番気に入ってるのが、5:This Loveです。Where I Wanna Beよりも色気がある。他の曲よりも「女性を呼んでこよう」という意志を感じるから。6:All Her Loveもなかなかいい。けど、このタイトルをつけるのには、何かが根本的に足らない。あくまで自分の枠の中で歌っているんだよね。All Her Loveを女性から貰ったのならば、もっと祈るような感謝を見せないと。

very slowで攻めた8: Think About Itはエロさもswearもsweetもあまりない。この領域で激傑作を作れるMaxwellとの差は大きい。けど、この「至らなさ」に不思議と惹かれているのも事実。11:I Wanna Love Uは大きく手を広げた曲。結構イイ曲なのだけど、


なぜ、この人はいつもWannaなのだろう?

かなり疑問に思ったから、ついついサイズをUPしちゃった。wanna、wanna言い過ぎてる気もする。そういうタイプの人って周囲にいない? 「〜〜〜できたらいいなぁ」って言い過ぎるから失敗する人。曲としてはいいからこそ、余計にこんなことを感じてしまった。

男というものは、負けが確実でも、勝負に出なくちゃいけない時がある
そう思う人には、絶対に合わない作品だと思います。逆に、そういう時に勝負に出れなくて、後から反省するようなタイプの人は、絶対にこの作品で癒されます。

12:When I Was Downです。Curtisのギターコードを使いながら、ここまで駄曲が作れるの?という位の感覚。それ位に元曲のカッコよさがない。久々に問題外のサンプリングを聴いた気がする。


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ということで、結局、誉めてるのか、貶しているのか分らなくなってきましたが、「自分には何かが足らない」と思う男性は、親近感を覚える事間違いなし。曲を一つずつ取り上げると恋愛なのに、アルバム全体としては敗北感が漂う。そんな手触りのアルバムです。あんまり点数UPする気はないけど、70点台かな。U Know What's UPの良さを加味すれば、80点でいいかもしれない。

「誰の憧れにもなれない作品だけど、この作品こそが一番自分に近い」という男性は沢山いると思う。そんな意味では傑作といえるだろう。音楽に、憧れでなく自分と似た感覚を求める人は是非お勧めです。



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