Donny Hathaway
膝を曲げ、子供の視線の高さで歌ってる
[2002/01/17]

人の精神性とは《地面の無さ》から生まれる
このアルバムを聴き込んで、これを実感した。確かに彼の境遇を見れば、どうしても一般の黒人大衆から浮いてしまうのだろうう。あの時期にハワード大学に奨学生という経歴は、それ位の話なのだろう。確かにマクナイトも普通に比べれば随分恵まれた境遇なのだろうし、だからこそ彼の処女作はぶっ飛んでるのだから。
宙に浮いた矢印なんだよね。それ位に拠り所が無いと思う。この感覚はJaheimを聴き込んでも見えてこない。彼には歌うべき実感としての生活があり、そうする事で歌を聴く人と繋がれる場所があるから。


 この点に間しては、Soul界でも屈指の名盤と言われる彼の"Live"には余り感じない。確かにLive盤だけあって、観客との一体感は思う。けど、どうしても自分は5曲目の"Little GhettoBoy"と6曲目"We're Still Friends"に惹き込まれる。観客は逆なのにね。明らかに7曲目の"Jealous Guy"でやっと呼吸させてもらってるもん。このアルバムは7曲目がなかったら、もしこのペースが続いていたら、かなりヤバいアルバムになってたと思う。

観客が求めているのはそれまでの黒人アーティストに無い手触りであって、本当に彼自身だったのだろうか?と思う。結局の所で、一体感を感じるアルバムだけど、聴き込んで見得てくるのは逆の姿のような気がしてしまう。


他のアーティストに指針を与えれる
これは凄い点でもあるし、ヤバイ点でもあると思う。アーティストだって人間なのだから、踏み越えるのに躊躇するラインがある。他のアーティストに指針を与えれる人は、そのラインを踏み越えてしまうのだと最近良く感じる。けど、そんな意味では、Donny Hathawayが根を張れたのは同世代のアーティストと、そして子供達だけなんだろう。


自身のピュアさを売り物に出来るガキを集めてきて、バックコーラスで歌わせる
そんなGhetto Songなんて吐き気がする位に大嫌いだ

このLittle Ghetto Boyを聴いてそう思った。だから他のアーティストの曲は大嫌いなのだと。彼の歌う歌こそが本物であって、ガキのバックコーラス使う曲はみんなまがいモンだよ、ホント。どうしてもお腹がすいちゃって、万引きする子供だっているよ。その子の為に歌うのがホントのGhettoの曲じゃないの?って思うから。その子はもう自身をピュアとは思えないよ。その子はその歳なのに自分自身に後ろめたさを覚えちゃうんだよ。って、もちろん自分はこんなにDeepじゃない。Why Christomasもそうだけど、あそこでのウンヤに比べれば100分の1だと思う。けど、ゼロではない。だから良く分るな。彼の歌の優しさが。

「芸術の意味は感動を与えること」って他では書いてる。けど、違うよ。ホントは「救える事」だよ。MaryJ.がSoulの女王なのも、彼女はそれだけの女性を救ってるからだと思う。MaryJ.に対する否定的意見が根本的に弱いのはだからでしょ。歌いかけても睨むしか出来ない子の為に膝を曲げて、同じ視線に立っている。だからこそ、きっとDonny Hathawayにならその子も心を開くと思うな。そして、

"Everything has got to get better"
で救われると思うから。彼はこの瞬間に立つべき地面を見つけたと感じる。現在のアーティストがDonny Hathawayを好きだと言う事。それも控えめに力強く言う事。ホントに良かったね。その言葉が彼に届いていたら、きっとあの最後にはならなかったと思う。結局、無言の支持が1番の支持なのだ。無言でしか支持出来ない人たちの支持が1番価値があるのだと。


このアルバムは、ホントに彼の地面の無さを痛感するアルバム。2曲目の"Someday We'll All be Free"は今まで自分が聴いてきた曲の中で、透明度として最高地点。

この先のアフリカン・アメリカンはこの曲を超える曲を生みだされるのだろうか?
と不謹慎にも思ってしまった。あの時期の、そしてDonny Hathawayだからこそ行けた地点だと思うから。あの頃に比べればアフリカン・アメリカンの境遇が良くなっている事、それに否定的な意見を思うつもりはないけれど。イイ事は全てに於いてイイ事でもないし、悪い事は全てにおいて悪い事でもないとは思う時がある。

2曲目と同じ伸びを感じるのが7曲目の"Love,Love,Love" 透明度は2曲目に敵わないけど、その分だけ親しみ易さがあるから。曲の途中からもう一段階伸びるもんなぁ。10曲目の"I Know it's You"や11曲目の"Load Help Me"も彼の良さが満喫出来ると思う。穏やかだけど、ちゃんと主張性のあるような店で流れている気がする。髭の生えたマスターが、拘りのコーヒーを炒れてくれるような店。 家で独りで聴く事しか考えてない自分だけど、こんな曲が流れる店だったら、ついつい足が向くと思う。このLoad Help MeもLoadコーナーに追加したいのですが、90年代の曲と並べたく無い気も。

5曲目の"I Love You more than You'll ever Know"を聴くと、ニュー・ソウルという感覚を受けない。って自分の身分で言えないけど、やっぱり彼の地面の無さが全てを生んでると思う。それがDeepさに結びついてると。

それにしても、マンガお勧めコーナーじゃ「人の精神性が何に直結するのか分らない」とは書いたけど、結論は「地面の無さ」に直結か それは凄く哀しい。結局は地面が無いから内面を凝縮させて重力を生み出したいのかも。。
それも大きくみれば人の欲望なのかもしれない。

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