D'Angelo
"Voodoo"
とっくの昔に川を渡り切ってたか
[2002/01/21]

今までずっとD'Angeloの事は苦手だった。そりゃねー自分の求めるアーティスト像の正反対をいってたもん。だって彼の何処にもスキが無いじゃん。聴いて欲しいとも思ってないだろうし、訴えかけようとも思ってないだろう。そのくせこんだけ影響力を持ってる。だから内心気に食わなかったなぁ、、ホントw
そりゃ他のアーティストがD'Angeloにインスピレーションを受けているのは認めざるを得ない事実だしね。自分はアホな男とアホな女が好きなのであって、格好つけてるアホは嫌いじゃないぞw けど、D'Angeloは格好つけてる訳でもないしね。ホントにハマるのは「どうしよもなさ」を感じるアーティストだが、それさえ無いもん。だからずっと合わないとさえ言えなかった。

けど最近、Donny Hathawayを聴いて、理解の幅が広がってきた。

他のアーティストにインスピュレーションを与えれるアーティストは
何か人が躊躇するラインを超えている

やっぱりこれは事実だよ。そう思うと、一気に霧が晴れたかのよう。

結局さ、もう根なんて無いんだよ。あのDonnyのアルバムを聴きながらそれを痛感してた。あのレベルはあの時期のアフリカン・アメリカンの境遇から生まれているのであって、あのレベルはもう生まれないよ。もうアフリカン・アメリカンに特有のアイデンティティーなんて無いんだよ。結局、D'Angeloはこの認識から出発してるんだね。それがやっと分かった。

この達観って凄い怖いよ。聴く自分だってこの認識は怖いんだから、実際のアーティストは100倍所の騒ぎじゃないだろう。けど、D'Angeloはそれを300%認識してる。他のアーティストが必死に根を探して、過去の作品に潜っているのに、彼はその達観を持ってる。だから、もっとクリアーに削り取って、もっと新しい色に染め上げてる。大したもんだよ、ホント。

1番凄いのは、その渡り切る瞬間の葛藤を見せない事だね。そんなの普通は出来ないぞ。この川ってのは、つま先を入れて水流を計ろうとした時点で、全身を持ってかれて溺れ死に決まってるのに。唯一の渡り切る方法は、「何があっても足は前に進める」、「向こう岸につくかどうかは最終的にどっちでもいい」。この2つの覚悟を持てるかどうかだよ。

で、間違い無く彼は渡り切ってます。


その先に根を張るべき豊穣な大地を見つけてる
なる程なぁ、、、分ってみれば、彼が何をやろうとしていて、今までに何を達成し、彼の何が他のアーティストにインスピュレーションを与えれるのかも一目瞭然だなぁ。そりゃ、こんなの出来るのD'Angelo位のもんだよ。彼と同様にSoulとHip-Hopの融合を目指すR&Bアーティストが挫折する訳だよ。これは方法論であって、その融合に彼の核がある訳じゃない。

彼は、「もうアイデンティティーなんてない」って言い切る所が、そこから絶望以上のモノをみつけているのが核でしょう。別格とかそんなレベルじゃない。全くAngie Stoneもとんでもない男に惚れたもんだよ。そりゃ12曲目でああとしか歌えないだろう。

イメージ的に言うと(もちろん本HPはそれしかないですw)
遠くの方で開いたり閉じたりしている扉か花びらなんだよね。凄い小さい。無視できるし、見詰めないと気付かないレベル。こちら側にガンガン押して来るアーティストとは正反対。聴く自分と向こう方の小さい入口との間にはホントに何も無い。小さい入口っていっても狭い訳じゃない。ただ、彼が人を呼び込もうとしてないだけだよ、これは。

そして他のアーティストのアルバムに感じるような、とてつもないDeepなモノを間に感じない。普通の平坦な空間。けど、それが1番曲者。まだ恋愛で痛いとかいう方が分る。「男と女が生みだす濁流が流れてる」って思えるもん。これは別。濁流じゃない。けど、つま先を浸した人から挫折させる。間違い無く。それ位の川だよ。


Angie Stoneの"Mahogany Soul"アルバムを聴き込んで、Donny Hathawayの"Extension of a Man"を聴き込んで、やっと彼がこの地点に行かなくちゃイケナイ必要性を感じた。時の流れは無慈悲にアフリカンアメリカン全員をこちら側に押しやっている。それに気付いて、その勇気を持てた人から渡り切ってる。そりゃどう見たって、"Someday We'll all be Free"のレベルはもう生まれないよ。


けど、いいんじゃない? 音楽は音楽なんだから。それ以上の根が無くても「歌いたい」って気持があれば。D'Angeloのこのアルバムを聴くと「Groove」だなぁ、、、ホント。このGroove感覚が新たな大地となるのか。確かにこの先20年というならば正しいかも。自分もそんだけ経ったら40半ばだよ。一体何やってるだろうなぁ、、、どんな歌手が生まれているのだろうなぁ、、、自分はちゃんと好きになるのかなぁ、、、「こいつら皆駄目だ」って言ってそうで怖いぞw

と、色々考えさせてくれるナイスなアルバムです。いつかみんなこっちに来るかもね。それは歴史の必然だよ。そんな気がしてます。いいじゃん。君らは恵まれてなかったし、音楽的には恵まれてたんだよ。ホントに。この世が1人ぼっちでいる訳じゃない限り、男と女の二人だけでも絶望はやってくるでしょう。 そしたら音楽は必要になる。そしていつかGrooveだけ残るってのも、スゲーナイスな世界だと思うよ。

どん底というのが光を生む
それを君らは人類の歴史に刻みこんだんだから。普通はもっと形も無くなるのにね。同化させられちゃうのにね。民族絶滅のための強制移住なんて、スターリンだってやってた話らしいが、普通は移住させられた先で、これだけ密度の濃いコミュニティーは生まれないよ。それ位に奴隷貿易は大規模だったのだろう。それは悲惨だけど、イイ意味もあったのかもね。現に、この先人類はこれだけ根無し草ながら、これだけの密度の濃いコミュニティーを生みだせないだろうし、それがあったら困るよ。

このアルバムとDonnyのアルバムはそれぞれが極北だ。
   
Grooveに包まれたいんだなぁ
やっぱり「もうアイデンティティーなんてない」っていうのは辛いんだね。確かに突き詰めて行くとそれが答えになると思う。けど、この事実はやっぱり痛いよ。だからGrooveに包まれたいんじゃないかな。だから、このアルバムは歌モノでは無いと思う。R&Bに分類されるのは分かるけど、一般的な歌モノでは無いよね、これは。そしたら、そこまでR&Bファンが彼の評価に振り回される必要もないと思ってきた。やっぱり自分も振りまわされてきたしね。

歌って叫んだ方がクリアーになる。D'Angeloだってもちろん出来る。けど、歌い始めたら彼は泣き出すと思うな。やっぱりそれだけの話なんだよね。ホントに辛いからこそ、バックのGrooveに預けてるんだと思う。そして、その彼のスタンスが受け入れられたんだろうね。ここまでの認識を持って、かつ、歌うのはもっと先の話かもしれないと感じた。少しずつ認識は広がっていくのだろう。今はその過渡期なのかも。そしたら彼のようにガンガンに抑えて歌う気分も良く分る。

そう思うと、、、このどうしようもなく抑えて歌う点が、彼がホントに突き詰めてるっていう事をダイレクトに伝えている気がしてきた。R&B親和性だけはあった自分でもこの達観は辛いんだから、やっぱり彼らにとってはこれだけのものなんだね・・・それがやっと分かったよ

彼は確かに渡り切る瞬間を見せてない。けど、それはそんな時期が無かったのだと、最近思う。本当にぶっ飛んだ事をこの歳でやりきる人ってのは、「それしか無い状況」を見るべきだと。すると、やっぱり牧師の3男だと思うんだよね。D'Angeloは少しずつ空気が変わっていくのを1番ダイレクトに感じ取れる場所にいたと思うから。アフリカン・アメリカンの全ての拠り所である教会で育てば、カナリアになるというべきか。

90年代を作った一撃の一つに数えられる彼の処女作についてはこちら


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